ヴァレンティノの帯踏みにじりCMが炎上
3月28日にWeb上で公開されたヴァレンティノのCMが炎上して現在も鎮火していません。このCMにモデルとして起用されたのは、木村拓哉さん・工藤静香さんの娘のKokiさん。そのCMがどのようなものか、ツイッター上に残っている動画をご覧ください。
問題とされる動画(炎上後、公式サイトや各種SNSより削除済み) pic.twitter.com/nFS6KOoWfr
— 滝沢ガレソ🌈🌱 (@takigare3) March 29, 2021
このCM映像をみて外国人がどのように受けとめるかはわかりませんが、少なくとも日本人には「着物の帯をヒールで踏みにじる」ものにしか見えず、「日本の文化と伝統を踏みにじられた」、あるいは、「日本文化への冒涜だ」と感じる人も多かったようです。
明らかにヒールで帯を踏みつけています。
土足(ヒール)で座敷に上がるような行為を日本人なら嫌うのは当然です。
ツイッター上では日本人からヴァレンティノに対する非難の声が殺到しました。
これに対してヴァレンティノから公式に謝罪され、CM動画も削除されました。
— Valentino (@MaisonValentino) March 30, 2021
(要点)
最近、日本人モデルを起用し日本で撮影されたヴァレンティノのCM映像に、意図せずに、日本の伝統的な家の中や玄関先で、靴を履き、日本の帯を連想させる織物を踏んだり座ったりするカットが含まれていることを重く見ています。
その織物は知らず知らずのうちに日本の伝統的な帯に似ており、ヴァレンティノはいかなる非難に対しても深く謝罪します。
謝罪はしていますが、「知らず知らずのうちに日本の帯に似ていた」というのは言い訳にしか聞こえません。なぜならヴァレンティノは世界に名だたるファッションメーカーであり、布づくりや刺しゅうなどの高い技術とノウハウを持っており、それが日本の帯だとわからないわけはないのです。このコメントからわかるのは、ヴァレンティノが日本の文化に対してリスペクトと理解がなかったことです。そして、自覚があるかないかは別として日本の文化と伝統を破壊しています。日本人であれば、日本文化の破壊を食いとめるしかありません。
ヴァレンティノに対して、西陣織工業組合と博多織工業組合 が「日本文化の原点ともいえる帯をハイヒールで踏み歩くなど日本文化を著しく冒涜(ぼうとく)するもの」として、ツイッターの釈明も「言い繕い」と一蹴し、「襟を正して文書で反省を示すべきではないか」と抗議したのは、日本人として正しい行動だといえるでしょう。
「襟を正して反省示せ」 ヴァレンティノ「ハイヒールで着物の帯踏む」CMに抗議 京都の和装団体 https://t.co/om5Fg0d4MT
— 京都新聞 (@kyoto_np) April 2, 2021
さらに炎上を招いた寺山修司との関連づけ
このCM制作の主要メンバーは以下のような人たちです。
Creative Director: Pierpaolo Piccioli
Art Director: Riccardo
Photographer: Fish Zhang
Stylist: Masako Ogura
Hair: Taku
Makeup: Yusuke Saeki
この中の一人、中国系カメラマンの Fish Zhang がインスタグラムにおいて、この映像が、日本の歌人、劇作家、映画作家などとして海外でも評価が高い 寺山修司 氏の映画「草迷宮」にインスパイアされたものだと発言し、さらに反感を買いました。
@koki for @maisonvalentino
👸
@maisonvalentino
@koki is seen as one of the #ValentinoDiVas— unique, confident and free— for the newest chapter of #ValentinoCollezioneMilano, inspired by the film “Kusa Meikyu” by Shuji Terayama
こちらもツイッター上に多数の批判が殺到しています。
バレンチノの炎上のインスパイアされたという草迷宮(寺山修司監督)と、今回の炎上。全く帯の扱い違うのですインスパイアされて芸術として消化して無い感じ。寺山修司のは道として見える。寺山すごいな、すき。 pic.twitter.com/suRCA615da
— 知絵子★Chiquito‼‼‼酒と写真と着物と芝居 (@chieko_1438) March 30, 2021
ヴァレンティノの件、炎上するも公式はだんまり。「寺山修司の草迷宮にインスパイアされてやっただけで、帯を地面に敷いたり踏んだりしてはいけないって知りませんでした」くらい言えばこんなにもめないのな。
寺山修司 草迷宮 全裸で走る少年は三上博史 pic.twitter.com/ArYjv2epvQ
— サクラサケ🌸ますたけ (@master_k1805) March 30, 2021
そもそもヴァレンティノはファッション、すなわち、一過性の流行をつくるビジネスの世界。これに対して寺山修司 氏の代表的映画作品である「草迷宮」は、時代を超えてリスペクトされる芸術作品。
次元が違います。
そして、ヴァレンティノはこのような日本を代表する作品から「ネタをパクった」だけです。
ヴァレンティノを生み出したイタリアといえば、古くはフェデリコ・フェリーニ監督やルキノ・ビスコンティ監督などによる芸術性の高い映画の名産国でもあります。この映像制作に関わったディレクターたちも、イタリアの芸術性の高い映画作品で目が鍛えられているはずで、このCMが寺山修司 氏の作品と全く次元が違うことくらいは理解できるでしょう。
つまり、「知らず知らずのうちに日本の帯に似ていた」という言い訳と同様に、寺山修司 氏の作品にインスパイアされたというのも薄っぺらい言い訳に過ぎません。そこにあるのは、日本の文化と伝統の軽視、そして、日本文化の破壊です。繰り返しになりますが、日本人であれば、日本文化の破壊を食いとめるしかありません。
日本人は日本の文化をもっと海外に発信する必要がある
今回のヴァレンティノの出来事からわかることは、「海外が日本の文化をいかに知らないか」ということです。これは裏返すと、われわれ日本人が「日本の文化について強く発信していなかったこと」でもあります。
今回はファッションに関係したトピックですが、たとえば日本には優れたファッションの伝統と技術があり、1980年代には山本寛斎、三宅一生、川久保玲などの日本のファッションデザイナーが世界を席巻しました。
もともと日本人は手先が器用で縫製などが得意で、四季に恵まれているせいで色彩感覚もあり、また、優れた刃物をつくる技術を持っていたためハサミなどの道具もあり、服飾を生み出すことにかけては世界有数の国と言っていいでしょう。これは、明治以前の時代の着物から来る伝統の技でもあります。
服飾関係だけではありません。屏風や扇子などの日用品や、古い建築物なども世界に類をみない優れたデザインと完成度を誇ります。
さらに映画であれば、黒澤明 監督や小津安二郎 監督、文学であればノーベル賞をとった川端康成や三島由紀夫、絵画であれば葛飾北斎や加山又造など、日本が世界に誇るべき先人たちは、枚挙にいとまがありません。
世界のミフネと呼ばれた #三船敏郎 の生誕日の今日は、彼が #ベネチア国際映画祭 最優秀男優賞を受賞した「用心棒」をご紹介。
巨匠・黒澤明が、時代劇に西部劇の要素を取り入れた痛快娯楽活劇で、三船演じる浪人の大迫力の殺陣にもご注目を👉https://t.co/rF8RRKYW9I pic.twitter.com/quNuPMADEn
— 映画.com (@eigacom) March 31, 2021
もちろん、今は、なんといっても日本のアニメーションと和食が、現在進行形で世界を席巻しています。
われわれ日本人はもういちど日本の文化・芸術を見直して世界に発信していくべきです。そして、ヴァレンティノのような間違いに対しては「それは間違いだ」と言って正すべきです。1961年に創業されたヴァレンティノよりも、はるかに長い時間をかけて豊かな文化を日本は生み出してきたのです。それを世界と未来へ伝えていくのが21世紀の日本人の仕事です。
それでもヴァレンティノを擁護する日本人がいる異常さ
一方で、謝罪したからという理由などで、ヴァレンティノを擁護する日本人がいることに驚きを隠さざるを得ません。正直いって、ヴァレンティノと同じように日本の文化と伝統に対する誇りやリスペクトがないのではないでしょうか。
I approve and agree with the idea and the concept.
I couldn't find any evidence of disrespect for traditional Japanese costume.
Even if it was an obi, I think it is clear that the design was applied to the space to make the model stand out.— 高橋しょうご (@Shogo_tkhs) March 30, 2021
たとえば、このアカウントはヴァレンティノの謝罪に対して、わざわざ英語で、そのコンセプトに賛同する、と発言しています。ここで大切なのは、日本とは何か、日本の文化とは何か、を考えて、間違った行動や解釈は正す。それだけのことです。
このアカウントは、私人ですので、非難は避けたいと思いますが、東京都杉並区の区議に立候補して落選した人物でした(2019年の杉並区議会議員選挙において70名の候補者の中で62ばんめで得票数は844票)。杉並区民である筆者としては、このような日本の文化の破壊に加担するような人物に投票することは永遠にあり得ません。