日本のヘイトの定義は欧米とは異なるガラパゴスな定義

日本のヘイトの定義は欧米とは異なるガラパゴスな定義

各地に拡がりそうな「日本人にだけ罰則を科す」ヘイトスピーチ禁止条例

過去の記事で取りあげたように、神奈川県の川崎市では「日本人のみに最大50万円の罰金」という罰則がある(=外国人には罰則なし)アンバランスな「ヘイトスピーチ禁止条例」が制定されています。

そもそも、この条例の理念は「全ての市民が不当な差別を受けることなく」という言葉にあるように、市民の「平等」をめざすものだったはずです。しかし、結果的には「日本人の言動にのみ罰則が設定される」という「不平等」かつ欠陥のある条例となっています。

しかし、欠陥のある条例であるにも関わらず、「川崎モデル」と称して、同様の不平等な条例を制定しようとしている地方自治体が増えているのが現状です。

まず、川崎市の次に続きそうな、神奈川県の相模原市。すでに、この条例の欠陥に気づいている有志のグループ「相模原を護る会」が活動し、声をあげています。しかし現在(2022年1月)においては決して有利な状況ではなく、懸命な是正活動が続けられています。

相模原市以外でも、愛知県、福岡市、広島市、武蔵野市など、さまざまな自治体において「川崎モデル」制定の動きがあります。

日本において「ヘイト」とは何?

川崎のヘイトスピーチ禁止条例の欠陥は、ヘイトスピーチを禁止することについて「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の禁止」として、「本邦外出身者」すなわち「外国人」を優先的に守ろうとしている点にあります。「全ての市民が不当な差別をうけることなく」というゴールに対して「本邦外出身者」を色分けするのではなく「全ての市民に対する不当な差別的言動の禁止」という文章にするのが本来あるべき姿です。

なぜこのような欠陥条例になったのか?
その元凶は国(法務省)の「ヘイトスピーチ解消法」です。

本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律

(目的)
第一条 この法律は、本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消が喫緊の課題であることに鑑み、その解消に向けた取組について、基本理念を定め、及び国等の責務を明らかにするとともに、基本的施策を定め、これを推進することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」とは、専ら本邦の域外にある国若しくは地域の出身である者又はその子孫であって適法に居住するもの(以下この条において「本邦外出身者」という。)に対する差別的意識を助長し又は誘発する目的で公然とその生命、身体、自由、名誉若しくは財産に危害を加える旨を告知し又は本邦外出身者を著しく侮蔑するなど、本邦の域外にある国又は地域の出身であることを理由として、本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動をいう。
(以下略)

このヘイトスピーチ解消法が、ヘイトスピーチ=「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」と規定していて、本邦外出身者のみを守るだけの法律となっています。つまり法務省が、「本邦外出身者」を特別扱いして「不平等」を助長しているのです。

(なお、国会の附帯決議で,「本邦外出身者」に対するものであるか否かを問わず,国籍,人種,民族等を理由として,差別意識を助長し又は誘発する目的で行われる排他的言動は決してあってはならないものとしていますが、これは「付け焼刃」で法的な効力を持ちません)

国連や欧米において「ヘイト」とは何か?

では、もともと人種や宗教や性別に対する差別解消に対して先進的な取り組みをしている海外において「ヘイト」をどう定義しているでしょうか。

まずは国連のヘイトスピーチの定義です。

What is hate speech?
There is no international legal definition of hate speech, and the characterization of what is ‘hateful’ is controversial and disputed. In the context of this document, the term hate speech is understood as any kind of communication in speech, writing or behaviour, that attacks or uses pejorative or discriminatory language with reference to a person or a group on the basis of who they are, in other words, based on their religion, ethnicity, nationality, race, colour, descent, gender or other identity factor.

ヘイトスピーチとは何ですか?
ヘイトスピーチの国際的な法的定義はなく、何が「憎悪に満ちた」ものであるかの特徴づけは、議論を呼び、論争が続いている。この文書の文脈では、ヘイトスピーチという用語は、言論、文書、行動におけるあらゆる種類のコミュニケーションであり、ある人物や集団を、その人物が誰であるかに基づいて、言い換えれば、宗教、民族、国籍、人種、肌の色、家系、性別、その他のアイデンティティ要素に基づいて攻撃したり蔑視や差別の言葉を使ったりするものと理解されています。

ソース https://www.un.org/en/genocideprevention/documents/UN%20Strategy%20and%20Plan%20of%20Action%20on%20Hate%20Speech%2018%20June%20SYNOPSIS.pdf

国連のヘイトスピーチの定義では、「国際的な法的定義はなく」とただし書きした上で、ヘイトスピーチという用語は、「宗教、民族、国籍、人種、肌の色、家系、性別、その他のアイデンティティ要素に基づいて攻撃したり蔑視や差別の言葉を使ったりするもの」とあり、「その国以外の出身者(本邦外出身者)」だけを守るという考え方はありません。

次に American Library Association (ALA : アメリカ合衆国に本拠をおき、図書館と図書館教育を国際的に振興する団体で、64600名の構成員を有する世界最古にして最大の図書館協会) による定義が以下です。

Hate Speech
There is no legal definition of “hate speech” under U.S. law, just as there is no legal definition for evil ideas, rudeness, unpatriotic speech, or any other kind of speech that people might condemn. Generally, however, hate speech is any form of expression through which speakers intend to vilify, humiliate, or incite hatred against a group or a class of persons on the basis of race, religion, skin color sexual identity, gender identity, ethnicity, disability, or national origin.

ヘイトスピーチ
邪念、無礼、非国民的言論、その他人々が非難する可能性のある言論に法的な定義がないのと同様、米国の法律では「ヘイトスピーチ」の法的定義はありません。しかし一般的に、ヘイトスピーチとは、人種、宗教、肌の色、性自認、性自認、民族性、障害、または国籍に基づき、あるグループまたはあるクラスの人々を誹謗、中傷、または憎悪を引き起こすような表現形式を指します。

ソース https://www.ala.org/advocacy/intfreedom/hate

やはり「法的な定義はありません」とただし書きした上で、ヘイトスピーチとは「人種、宗教、肌の色、性自認、性自認、民族性、障害、または国籍に基づき、あるグループまたはあるクラスの人々を誹謗、中傷、または憎悪を引き起こすような表現」とあり、「その国以外の出身者(本邦外出身者)」だけを守るという考え方はありません。

さらに、47の国が加盟しているヨーロッパ統合に取り組む国際機関「欧州評議会 European Concil」による定義が以下です。

Hate Speech
Hate speech has no particular definition in international human rights; it is a term used to describe broad discourse that is extremely negative and constitutes a threat to social peace. According to the Committee of Ministers, hate speech covers all forms of expressions that spread, incite, promote or justify racial hatred, xenophobia, anti-Semitism or other forms of hatred based on intolerance.

ヘイトスピーチ
ヘイトスピーチは、国際的な人権に関する特別な定義はなく、極めて否定的で社会の平和を脅かす広範な言説を指す言葉である。閣僚委員会によると、ヘイトスピーチは、人種差別、外国人排斥、反ユダヤ主義、その他不寛容に基づく憎悪を広め、扇動し、促進し、正当化するあらゆる表現形式を対象としています。

ソース https://www.coe.int/en/web/freedom-expression/hate-speech

こちらもやはり「明確な定義はありません」とただし書きした上で、ヘイトスピーチは「人種差別、外国人排斥、反ユダヤ主義、その他不寛容に基づく憎悪」とあり、「その国以外の出身者(本邦外出身者)」だけを守るという考え方はありません。

これら国連や欧米の「ヘイトスピーチの定義」を見る限り、日本のヘイトスピーチ解消法の「ヘイトスピーチ=本邦外出身者に対する不当な差別的言動」という定義は日本固有で欧米とは乖離した「ガラパゴス」な考え方だといえます。

なぜ「本邦外出身者」だけを守るのか?なぜ日本人を守らないのか?
なぜ国連や欧米のヘイトスピーチの定義にあるような、人種、宗教、性別、肌の色などによるヘイト行為は含まれないのか?

日本のヘイトスピーチ解消法は、世界的に一般的なヘイトスピーチの定義からかけ離れ、本邦外出身者だけを守り、日本人へのヘイトは放置し、人種、宗教、性別などによる多様な差別の問題も解決できない欠陥法です。

* なお、ヘイトスピーチと同様に、その定義について諸説ある「ヘイトクライム」については、以下のFBIの定義が参考になるでしょう。

Defining a Hate Crime
A hate crime is a traditional offense like murder, arson, or vandalism with an added element of bias. For the purposes of collecting statistics, the FBI has defined a hate crime as a “criminal offense against a person or property motivated in whole or in part by an offender’s bias against a race, religion, disability, sexual orientation, ethnicity, gender, or gender identity.”

ヘイトクライムの定義
ヘイトクライムとは、殺人、放火、破壊行為のような従来の犯罪に、偏見という要素を加えたものです。統計を取る目的で、FBIはヘイトクライムを「人種、宗教、障害、性的指向、民族性、性別、性自認に対する犯罪者の偏見によって全体的または部分的に動機づけられた、人や財産に対する犯罪」と定義しています。

ソース https://www.fbi.gov/investigate/civil-rights/hate-crimes

法務省はヘイトスピーチ解消法を修正せよ

これまで述べてきたように欠陥法である日本のヘイトスピーチ解消法は一刻も早く修正する必要があります。なぜなら上瀧浩子弁護士のような人物が「日本人は誰でも殺せ」「日本人女性をレイプしろ」は差別に当たらない、などという発言をして、日本人に対するヘイトスピーチや差別を助長しているからです。

たとえば国連の定義を用いれば、「日本人は誰でも殺せ」「日本人女性をレイプしろ」は、民族、国籍、人種のアイデンティティ要素に基づいて攻撃および差別の言葉を使っているヘイトスピーチです。

しかも本来は人権を守るのが仕事である弁護士が、ヘイトスピーチを容認し助長しているという異常なことが起きているのです。

ヘイトスピーチ解消法を修正すれば、上述した地方自治体のヘイトスピーチ禁止条例も法的根拠を失い、本来あるべき人種や性別などに対して平等で全ての市民を守る条例に変えることができます。

第一段階の修正は簡単で「本邦外出身者」という言葉を「日本国民および本邦外出身者」とするだけです。
しかし、ヘイトスピーチ解消法は「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」の通称なので変えられない、といった屁理屈で反対する可能性があります。もしそうならば、全く同じ内容で「日本国民に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」を制定して、その2つの法律の総称を「ヘイトスピーチ解消法」とすべきです。そして、第二段階の修正として、「国籍」「性別」「宗教」「肌の色」などの要因で起こりうる差別を禁止する文章を盛り込む必要があります。

まずは法務省に、現在の間違ったヘイトスピーチ解消法を正しく修正させる必要があります。
もともと間違った解釈の法律を放置している法務省が悪いのですから。

参考情報

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